映画版は2015年に配役を変更してリニューアルされた「トランスポーター」シリーズですが、改めてジェイソン・ステイサム版の三部作を観直しましたのでレビューしておきます。

まず作品個々の話の前に大枠の事から触れていきます。

「トランスポーター」はハリウッド作品ではなくリュック・ベッソンとピエランジュ・ル・ポギャが共同で立ち上げた映画スタジオ、ヨーロッパコープ社の作品です。映画の配給こそ20世紀FOXがおこなっていますが、ベッソンがフランスで立ち上げたれっきとしたフランス製映画なのです。

ジェイソン・ステイサム版「トランスポーター」シリーズはすべてリュック・ベッソンが製作、脚本に携わっているのですが、ヨーロッパコープ社の作風とベッソンの関り方が分かりやすく出ているのも「トランスポーター」シリーズです。

というのもベッソンは「グラン・ブルー」(88)、「レオン」(94)などで世界的な地位を確立し「ジャンヌ・ダルク」(99)以降は本当に作りたい映画しか監督業に手を出さなくなります。結果論ですが、ベッソンの名前貸し事業とライトな作品を量産する場としてヨーロッパコープ社が作られたのだと考えます。もちろん自国の映画産業を活性化させるという大義名分もあるでしょうけど。

ヨーロッパコープ社設立前にベッソンが製作した映画に「TAXI」(98)があります。フランスのマルセイユを舞台に凄腕タクシー運転手が活躍するというお話ですが、「トランスポーター」のコンセプトと似ています。‘タクシー’や‘トランスポーター’という設定を最大限活かしきれない辺りもコンセプトだけ与えたベッソンらしいですね。「TAXI」はベッソンブランドに弱い日本をはじめ世界的にヒットしました。これを受けて「TAXI」シリーズは4作目まで作られる事になります。日本での「TAXI」ヒットを受けて作られたのが「WASABI」(01)だったりしますが、それはまた別の話。

また映画界は「マトリックス」(99)の影響を受けて香港式の演出技術や香港人の俳優、スタッフを欧米で受け入れるようになります。ベッソンもこの影響を受けました。そして作られてた作品が「キス・オブ・ザ・ドラゴン」(01)です。コンセプトは‘カンフーを使うレオン’。中国の至宝、ジェット・リーを主演に向かえジェット・リーのベストパートナーでもある武術指導家コーリー・ユン(ユン・ケイ)を招集しました。このコーリー・ユンがそのままヨーロッパコープ社の「トランスポーター」シリーズの武術指導を引き受けるのです。 ちなみに‘カンフーを使うレオン’のコンセプトを再利用してベッソンは再びジェット・リーで映画企画にGOを出し「ダニー・ザ・ドッグ」(05)を作ります。
このようにベッソンの名義貸し、コンセプトだけのライトな作風、カンフーという要素を集めて作ったのが「トランスポーター」シリーズなのです。


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※向かって左がコーリー・ユン。

「トランスポーター」シリーズの特徴は国際色豊かなキャスティング、スタッフ、舞台設定にあると思います。
一作目「トランスポーター」(02)では監督にフランス人のルイ・レテリエと香港人のコーリー・ユン。メインキャストは主役のジェイソン・ステイサムはイギリス人でヒロインのスー・チーは台湾出身の中国人。舞台はフランス南部のコートダジュールというハイソな場所。
「トランスポーター2」(05)では舞台をアメリカのマイアミに移し、悪役にはイタリア人のアレッサンドロ・ガスマン。
「トランスポーター3 アンリミテッド」(08)では舞台をフランスのマルセイユからドイツのシュトゥトガルト、ハンガリーのブタペスト、ウクライナのオデッサと地続きのヨーロッパの地形を活かしたロケーションをしています。ヒロインはロシア人のナタリア・ルダコーワです。このように国際色豊かな雰囲気が「トランスポーター」シリーズの特徴といっていいでしょう。

ジェームズ・ボンドよろしく運び屋 フランク・マーティンが活躍するのが「トランスポーター」です。「トランスポーター」の最大の功績はずばりアクションスター ジェイソン・ステイサムの発見でしょう!

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※ジェイソン・ステイサムがこんなに動ける人だったとは!

ステイサムはイングランド出身で元々水泳の飛び込み選手と言われています。競技者を引退した後、モデルを経て俳優の道にすすみガイ・リッチー監督の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(98)で銀幕デビューし、その後もガイ・リッチーの「スナッチ」(00)、ガイ・リッチー製作の「ミーン・マシーン」(01)やジョン・カーペンター監督の「ゴースト・オブ・マーズ」(01)などで脇役ながら印象に残る顔立ちでした。

ただ31歳の映画デビューながら頭部は禿げ上がり、ルックスがイケている訳ではないステイサムだったので曲者俳優、名脇役としてのキャリアを築いていくものと思っていました。しかし2002年の「トランスポーター」で度肝を抜かれました。鍛え抜かれた肉体と高い身体能力を見せつけたステイサム。本作以降ステイサムのパブリックイメージは固定化されました。‘寡黙だがクールで強い男’。ブルース・ウィリスに次いで禿てもカッコイイ男を体現していくのです。

こんな風にして始まった「トランスポーター」ですが次からは個別の作品レビューです。